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ジオマンシーショートストーリー

ジオマンシーは、アラビア生まれのとても当たる占いです。ジオマンシーの16のシンボルにまつわる物語を、一話完結のショートストーリーとしてご紹介していきます。

 

ケース16「竜の尾」〜ミライの場合〜

ずっと仮面フリーターだった。

ううん、実質はフリーターそのものだ。短期の工場バイトや、不定期のイベントスタッフ、現金手渡しのその日仕事。ほとんどの時間をいろんなバイトに行っていたのだから。

仕事を聞かれると、「フリーターかな」とごまかしながら、演劇のオーディションを受け続けてきた。

エキストラとして出たことなら何度もある。単発ドラマにも出た。短いけれどセリフをもらったこともある。でも。

「女優やってます」とは言えなかった。

そんな中、ずっと憧れていた監督のドラマの、出演者募集を見つけた。

今度こそ合格したい……でもまた落ちるかも。不安と期待と絶望と楽観と激しく上下する精神状態に耐えられなくなって、ミライは、ネットで見つけたスマホのメール占いに申し込んでみた。

年齢と質問を送れば、占い師がメールで回答してくれるのだという。

『29才、売れてない女優です』

メールには、正直に書くことができた。

『今度、憧れていたドラマのオーディションがあります。合格することができるか教えてください』

明くる日、占い師からの回答文が届いた。

『ご相談ありがとうございます。ジオマンシーというとてもよく当たるアラビアの占いでみてみました。物事の終わりを表す「竜の尾」が出ました。近いうちに何かが終わる暗示です。残念ですがオーディションの合格は難しいでしょう。そして、これを機に、今までの自分を卒業することになるかもしれません』

ミライは思わず、頭に血が上って、声を荒げた。

「なんなの!? 卒業? 意味わかんない!」

スマホをベッドに投げつける。

「なんなの! この占い師! 全然当たってない! むかつく! むかつく!」

占いをしたことを後悔し、猛烈な怒りがわいてきた。絶対にこの占いを「外れさせてやる!」と思った。

それからオーディションの日まで数日、ダイエットとウォーキングと寝る間も惜しんで歌の練習をした。

オーディション当日。ミライがこれまで何百回と受けたオーディションの中で、最高の出来だった。審査員の反応も良かった。受かると確信した。

オーディションの翌日。結果はメールで届いた。

『……残念ながら不合格と……』

手からスマホが滑り落ちた。そのまま、しゃがみこんでしまった。絶対に受かると信じて、全部出し切ったから、空っぽになってしまった。頭も真っ白で、何も考えられない。

「終わった……」

言葉にすると、じわじわと実感がわいてきた。

占いの通りになってしまった。のろのろと、スマホをひろいあげる。画面に指が触れた。結果通知のメールには、続きがあった。

『……別件となりますが、秋から始まる舞台の……』

キャストとして出てみないかという誘いだった。主役ではないけれど、ちゃんとセリフもある。舞台経験はほとんどなかったのに。

『やります! やらせてください!』

反射的にメールを返信していた。

お腹のそこから、ぞくぞくっと震えが来た。

「……占い、外れたじゃん。外れた!」

ドラマのオーディションには落ちたけれど、終わらなかった。未来はつながっていた。

その日から、ミライは、バイトの合間に発声練習と筋トレをはじめた。

舞台の稽古がはじまってからもあいかわらず、ほぼバイトの毎日を過ごしている。けれど、ミライはもう職業を聞かれて、フリーターとは言わない。

「舞台女優やってます」

そうこたえる。毎回、恥ずかしいし、実態は全然追いついていないと思う。でも、ウソじゃない。

ふっと、思うことがある。

あのオーディションで、「仮面フリーター」だった自分は卒業したのだと。終わりは新しい始まりだった。

でも、占いが当たったんじゃない。

今この未来を選んだのは、自分自身だ。

 

 

ジオマンシーシンボル「竜の尾」のキーワード

終わり。何かを終了して次のステップへ。

 

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占い師・作家:高橋桐矢

WRITTEN BY 高橋桐矢

高橋桐矢
高橋桐矢(たかはしきりや)占い師兼作家。 雑誌「ムー」(学研プラス)に毎月の占い掲載。 著書『占...