第9回ジオマンシーショートストーリー ケース9「喜び」〜モエの場合〜
ジオマンシーは、アラビア生まれのとても当たる占いです。ジオマンシーの16のシンボルにまつわる物語を、一話完結のショートストーリーとしてご紹介していきます。
今回のシンボルは、「喜び」
主人公、モエにとっての喜びは、何だったのでしょうか?
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第9回ジオマンシーショートストーリー
ジオマンシーは、アラビア生まれのとても当たる占いです。ジオマンシーの16のシンボルにまつわる物語を、一話完結のショートストーリーとしてご紹介していきます。
ケース9「喜び」〜モエの場合〜
出典: Pixabay
久しぶりに大学のサークルに顔を出したモエは、占いをするという後輩に、興味本位でみてもらうことにした。
「何をみてもらおうかな。別に悩みもないけど、まあ、就職についてかな」
「じゃあ、このダイスを転がしてください」
後輩は、ダイスの目を確認すると、占いの本をひらいた。
「結果は、えーと。『喜び』っていうシンボルですね。先輩、子供の頃なりたかったものってなんですか?」
「なんで、喜びだと子供の頃の話になるわけ?」
本を見ながらのド素人の占いに、モエはイライラした。
「あの、就活で喜びってことは、自分が楽しいと思える仕事がいいんじゃないかと思いまして。だから子供の頃の……」
「あのね、適当なこと言うの、止めてくれる?」
後輩の顔色が変わった。でもモエは止められなかった。
「仕事ってさ、遊びじゃないのよ。楽しいことなんてやってられないの。やりたくないことを、我慢して無理して、がんばってやるのが仕事なのよ。お遊び気分で占いしてられるのも、学生のうちだけよ。仕事は違うの」
後輩は、うなだれて頭をさげた。
「すみません……」
「あんたのために言ってるんだからね」
自分の口からその言葉がこぼれた瞬間、モエは、強烈な頭痛を感じて、よろけるようにして、その場を離れた。
壁によりかかるようにして、大学の廊下を歩きながら、めまいがした。
(あんたのために言ってるんだから)という言葉は、モエ自身が何度も何度も、母親に言われた言葉そのままだった。
高校受験のとき、大学を選ぶときも、就職活動が思うように進んでいないと話したときも。
ずっと母親から聞かされていた呪いのような言葉を、無意識のうちに自分が口にしてしまっていたことに、殴られたようなショックを受けた。
「わたし、このままじゃダメになる」
頭の中の霧が晴れていくように、気持ちがクリアになっていくのを感じた。
就職試験は、給料がよくて、見栄えがよくて、母親の自慢になりそうな名の知れた有名企業ばかり受けて、どこも玉砕した。自分がしたい仕事かなんて、考えたこともなかった。
自分が子供の頃、本当になりたかったもの……。
出典: Pixabay
外に出るとモエは、携帯を取り出して、実家に電話をかけた。
「お母さん、わたし、モエだけど。あのね、就職しないことにしたから。しばらくは今行ってるギャラリーでのバイトを続ける。自分が本当にやりたいことをやるの」
電話口の向こうで、母親が何かをわめいていたが、モエは、かまわず電話を切った。
気持ちが高揚していた。
さっきまで灰色だった風景が、急に色鮮やかに見えた。
「あ! あの子に謝らなくちゃ!」
モエはくるりと身をひるがえした。
自然と笑みが浮かぶ。
就職先は決まっていない。
でも、未来も決まっていない。
決まっていないことが楽しい、初めてそう思えた。
ジオマンシーシンボル「喜び」のキーワード
幸せ。楽しい。笑い。子供のような純真さ。
*画像は「ジオマンシーカード」「ハピタマ!」です。
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占い師・作家:高橋桐矢