赤酒の国から吟醸酒の名産地へ 9号酵母と土地の微生物ネットワークが醸す旨い酒・花の香 木桶仕込み菊花を味わう


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◇熊本の日本酒の歴史、御国酒の赤酒主流の酒造りから吟醸酒へ

熊本の酒造りの歴史は古く、秀吉の九州平定ののち熊本に赴いた加藤清正が治めた時代から約300年間、赤酒が造られていました。
赤酒とは、お米と麹を発酵させた酸性の「もろみ」の中に、アルカリ性の木灰を加え、酒の保存性を高める「灰持(あくもち)」という製法で醸造した古来の日本の酒です。
名前の由来でもある、赤酒の特徴である赤褐色は古酒になればなるほど、より深い色合いの赤になり、その色からお祝い事やお正月に欠かせないお酒とされています。

古く、細川藩では赤酒を御国酒と定めており、これ以外の酒造りを認めていなかったために、熊本の酒造り=赤酒を仕込むとなっていました。明治維新後の物流及び人の流れが活発になるにつれ、熊本でも清酒が好まれるようになり、県外で製造される清酒が入ってくるようになります。
県外から入る清酒は、西南戦争により県内の産業は荒廃し酒の生産も低下していた熊本には大きな打撃で、赤酒のみを造ってきた熊本の酒造業界も赤酒の仕込みから清酒を仕込む道へ切り替えをはかることになりました。

県内の産業の荒廃を憂いた当時の県知事・富岡敬明氏は、県の産業革命として、①米の改良②養蚕の改良③清酒の改良を指示しました。
米と蚕についてはうまく軌道に乗ったものの、酒の改良だけが満足できる結果を出せないでいたそうです。

知事の指示を受け、赤酒を仕込んでいた蔵の多くが、清酒の仕込みを始めましたが、蔵付き酵母は赤酒に適した酵母で、清酒が出来上がってもどこか赤酒に似た風味を伴う清酒になってしまい、県内で造られた清酒は、清酒を好み飲む人にはあまり受け入れられなかったようです。
そこへやってきたのが、香り高い吟醸酒を語る上ではずせない9号酵母の生みの親、野白金一氏です。

 

◇熊本を清酒後進県から吟醸酒の名産地へと導いた「酒の神様」と称された野白金一氏の功績

県知事の号令により、清酒の改良に動き始めた熊本に、島根県松江市の清酒も造る醤油醸造家の長男であった野白金一氏が、熊本税務監督局鑑定部(現・熊本国税局鑑定官室)への異動によりやってきます。
酒造りの講習を任された野白金一氏は、県下各地の酒蔵を巡り、指導にあたりました。
野白氏は熊本の清酒を全国レベルに成長させるには「赤酒退治」が必要だと説きます。
「赤酒を造ってきた蔵で、赤酒を仕込んできた杜氏が、その技術のまま清酒を仕込んでも熊本の清酒は進歩せず、努力が報われない。」と、
伝え歩いたのです。

しかし、熊本の蔵人にとって、「赤酒は自慢の御国酒」です。
野白氏の言葉に、すぐ従う者はなかなか現れず、それでも熱心に伝え続けたと言います。
次第に、野白氏の指導を仰ぐ蔵が現れるようになります。
野白の指導を受けた蔵は年々良い酒を造るようになり、県内の赤酒のメーカーも清酒造りに意欲を見せるようになっていきます。

その流れのなか、県内に酒造研究所を設置し熊本の風土に合った酒造り目指そうという声が、酒造メーカーから自発的に上がるようになり、明治42年、熊本県酒造研究所が誕生します。
熊本県酒造研究所は、現在の熊本市島崎に研究所と酒蔵を建て、県民から公募した「香露」という名称で醸造を開始します。

この「香露」を仕込む蔵で、野白氏がみつけ生み出したのが、次でお話する9号酵母です。
この酵母を使い仕込んだ清酒は、大正、昭和と引き継がれていきます。
昭和5年の全国新酒鑑評会では、出品総数約4千点中、1、2、3、5位を清酒後進県であった熊本が独占するという快挙を成し遂げます。
野白金一氏は、清酒後進県熊本を、吟醸酒の名産地へと推しあげた功労者で、熊本の日本酒はこの人無し、9号酵母無しでは語れないのです。

 

◇「酒の神様」が生み出し、現在も華やかな吟醸香を有する酒には欠かせない9号酵母

9号酵母の説明をする前に、そもそも酵母とは何かをお話しておきましょう。
酵母とは肉眼では見えない小さな微生物で、清酒に用いられる酵母の大きさは5~10ミクロン(1ミクロンは1mmの1/1000)で球形や楕円形をしています。
酵母は、食材を発酵させる働きを持ち、自然界にたくさんの種類が広く存在します。
清酒に限らず、ワインやビールなどの酒類、パン、しょうゆ、味噌などにも酵母は多く用いられます。
酵母は生き物で、お米に含まれる糖分を餌に成長し、その過程で排出されるのが「アルコール」です。
日本酒にアルコールを発生させるには、酵母の力が必要なのです。

また、日本酒における酵母の役目は、アルコールを作りだすことだけではありません。
アルコールを排出する際に、炭酸ガスも一緒に排出するのですが、その炭酸ガスが日本酒の香りのキメ手になります。
排出される炭酸ガスの主成分に、「カプロン酸エチル」「酢酸イソアミル」というものがあるのですが、この成分は、果物のリンゴやメロン、バナナにも香り成分として含まれているものです。
日本酒の香りを、リンゴのような…と表現するときは、「カプロン酸エチル」の香りを多く感じると言い換えることができますし、また、バナナのような…と表現するときは、「酢酸イソアミル」を感じているとも言えます。

また、最近、マスカットのような…と表現される、白ワインにも似た香りを感じる日本酒も増えてきています。
マスカットのようと表現される香りは、「4MMP」という成分が多く出ているためと言われています。

 

酒造りのなかで、香りを司ると言われている清酒酵母ですが、存在が確認されたのは明治に入ってからです。
それまでは、どこの酒蔵でも自身の蔵に棲みついている酵母を利用していたのですが、酵母の性質などを調べる手段が少なかったため、出来上がるお酒の酒質にはかなりばらつきがありました。

明治時代に入り、酒から徴収する税金が国家予算の大黒柱になったために、国は「優良な清酒酵母を培養し、全国の酒蔵に提供すること」で酒質のばらつきをなくし、酒税を増収することを考えます。
そうした流れから国立醸造試験所が設立され、そこで見つかった優秀な酵母を日本醸造協会が、きょうかい1号、2号、3号と番号をつけ、全国の酒蔵に頒布するようになります。
その9番目が熊本の「香露」の蔵から「酒の神様」野白金一氏が見つけ、分離し培養した酵母です。

9号酵母、見つけられたのは8号酵母より前だったそうですが、熊本に清酒のイメージがなかった頃に生まれているため、その時は協会より依頼がなかったと言います。
前の項で話したように、全国新酒鑑評会で、1、2、3、5位を独占し熊本の吟醸酒の評判が拡がった後、登録に至ったことから8号より前に生まれていたにもかかわらず、9号として登録されました。

この9号酵母には、01と02があり、酵母が発酵する過程で泡を出さないタイプと出すタイプがあり、01を泡なし、02を泡ありと呼んでいます。
また、9号酵母のなかでも、「香露」の蔵が直接培養し馴染みの蔵に配っているものは「熊本酵母」と呼ばれ、区別されています。

 

きょうかい〇号酵母というキーワードから日本酒好きの方は、6号酵母の秋田の新政酒造を連想される方も多いかもしれません。
同じスペックで醸しても、酵母を変え、香りを変えることで味わいも変わってきます。
酵母にも注目し、日本酒を味わってみてください。


photo by ミラクルナビらぶちゃん

 

◇9号酵母を用いた旨い酒、花の香酒造 【花の香 木桶仕込み菊花】を味わう

近くにあり、頻繁に覗かせてもらっている酒屋さんで運命の出会いをしました。
それが、今回ご紹介する9号酵母を用い、木桶仕込みで醸した【花の香 木桶仕込み菊花】です。

これまでに飲んだことがある蔵の日本酒でしたが、木桶仕込みのものに出会ったのは初めてで、一度味わってみなくては…とレジへ運ぶと、蔵が新調した吉野杉の木桶で仕込みに初挑戦したお酒であると店主が教えてくれました。
日本酒がデザートになるという言葉に惹かれ、日本酒Caféスタイルというイベントへ潜入
の記事にあるイベントで、奈良の美吉野醸造さんの花巴という日本酒を通し、木桶仕込みの日本酒に出会って以来、日本酒の独特の香りの中に、ほのかに木の香りが混じる木桶仕込みの樽酒にも似た日本酒の味わいに目がない私は、即断即決で【花の香 木桶仕込み菊花】の購入を決めました。


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【花の香 木桶仕込み菊花】を実際に飲んでみると…日本酒の独特の香りの中に、ほのかに木の香りが混じっています。
先ほどご紹介した9号酵母独特の爽やかかつ芳醇な香りに、ほんのり混じる木の香り、香りだけで幸せになります。
日本酒を飲みながら、アロマテラピーの芳香浴をしているようで、至極のひと時です。

加えて【花の香 木桶仕込み菊花】は生酛づくり(日本酒造りのおおもとの酒母を作る際、雑菌を抑えるために乳酸を添加することが一般的だが、その乳酸を添加せず自然発生する乳酸を育てて使う日本酒造りのこと)の日本酒なので、生酛づくり特有の豊富な酸も舌の上でしっかり感じます。
爽やかでも深く複雑に立ちのぼる香りの向こうから、舌の上にやってくる豊かな酸を感じ、その酸が過ぎ去ると、旨みが後から後からやってくるこの日本酒、本当に美味しかったです。

個人的な好みにドンピシャな日本酒で、近くまたこの酒店を訪れ、在庫が残っていれば複数本買い、ストックしておきたいと感じるほどはまりました。
虜になった旨みは、木桶自体も生きている故か?と感じたので、次では、木桶仕込みについてお話します。

 

◇伝統があり、でも新しい…木桶仕込みとは?

戦前まで多くの蔵が木桶で仕込むのが普通だった日本酒ですが、戦後建て直された蔵の多くは、物資不足や産業の発展からホーローやステンレスのタンクを用いるようになりました。
しかし、ホーローやステンレスのタンクは、酒造りが終り洗浄を行うと微生物も洗われてしまい、環境がリセットされてしまいます。

一方、木桶に使われることの多い杉は、樽になっても呼吸をしているようだと言われ、杉でできた樽の表面を顕微鏡などで拡大して見ると、無数の小さな穴が空いていて、その穴一つ一つに微生物が住み着きます。
ごく小さな穴ではありますが、日々の気温湿度なのに合わせ、空気を通したり水分をため込んだり、桶は日々変化します。
そのような変化と、蔵独自の味わいは切っても切れ離せません。
そうした流れで、木桶による日本酒造りが近年見直されはじめています。

今回ご紹介した、【花の香 木桶仕込み菊花】も花の香酒造が新たに木桶を購入し、定番の菊花という商品を、木桶で仕込むことに挑戦したものです。
木桶で微生物が生き続けることに注目し、木桶での酒造りに回帰する蔵も増えるなか、クローズアップされてきているのは、桶職人の後継者不足です。
特に、日本酒など醸造に用いる大桶はメンテナンスをする職人がいなくなっている現状に、そんな流れを危惧した、全国の木桶を用い醸造している蔵が集まり、木桶職人復活プロジェクトが始まっています。

 

◇花の香酒造の「産土(うぶすな)」というビジョン、何万年も連綿と続いていく生命の営みの延長にある酒造りとは?

花の香酒造のHPを拝見すると、産土(うぶすな)というキーワードに目がいきます。
産土とは、日本の古語で生まれた土地やその地の神々を指します。
酒造り自体、神様へ捧げるお神酒を造る神事だったことを思うと、日本の神々を連想させる産土という言葉と酒造りは違和感がない気がします。

花の香酒造の掲げる産土の定義は二つです。

一つは、産まれた土地(和水町)独自の天候や地質、水質、この土地にしかない微生物群ネットワークが酒の品質を向上させ、個性を与えるという「微生物エコシステム」。
そして、二つ目は、人を「産土」の大地に育った米から、独自の個性をもった日本酒が自ら生まれ出る力を導きだす「導き手」としてとらえるという思想です。

こうした考えに基づき、科学、農業、醸造技術、神羅万象への祈りの心、導き手の力などが合わさり、命の営みの延長に酒造りがあると考えることで、こんな旨い酒が生まれるのだなと感じました。
拝見させていただいた、花の香酒造のHPやインスタグラムは、地元和水町の美しい自然を多く垣間見られ、癒されます。
ぜひ、HPやインスタグラムにも足を運んでみてください。


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◇花の香酒造の地元、和水町(なごみまち)から日本酒の和らぎ水について語る

洋酒を飲む際のチェイサーを、日本酒では和らぎ水と言います。
お酒とお酒の間に、お酒と同量程度のお水を飲むことで、深酔いとお酒が翌日に残るのを防げると言われています。
花の香酒造の地元、和水町の漢字をみて、まさに和らぎ水の町⁈と感じました。

花の香酒造の仕込み水は、代々守り続けてきた神社の井戸で、そうした流れから産土という発想やビジョンが生まれたのかと想像します。
また、この井戸は活火山「阿蘇」関わりが深く、火砕流堆積物が凝固した岩盤をくり抜き造られているのだそうです。

 

◇和水町の身体の八神様と菅原竈門神社

花の香酒造のHPでも画像入りで紹介されていますが、和水町の三加和地域という場所には八つの神様が点在しています。
目、イボ、胃、性・腰、歯、命、耳、手足の神様が、およそ800年も前から地域の方々に大切にされ、祀られています。

また、蔵から車で15分ほどの場所に菅原竈門神社という神社が鎮座し、2020年に人気を博したアニメの主人公の苗字と同じであることから、聖地巡礼と訪れる人もいるようです。

花の香酒造は、蔵で作るお米の田植えに一般の方も参加出来たりするなど、地域との連携も図っているそうなので、感染症が収束し県境を跨いだ移動もできるようになったら、和水町の神様へのご挨拶と共に、田植えイベントなどにも参加してみたいと思っています。

花の香という日本酒に出会えたら、ぜひ、味わってみてくださいね。

 

 

日本酒ナビゲーター:ミラクルナビらぶちゃん

WRITTEN BY ミラクルナビ らぶちゃん

ミラクルナビ らぶちゃん
日本酒ナビゲーターで、占い師、セラピスト。以前の職を生かしメイクレッスンやフェイシャルエステなど美容...